「次は音楽か。リコーダー終わったし歌か…。あんまり好きじゃないんだよなー」

「龍之介、歌キライなの?」

次々教室を出ていく級友を眺めながら溜め息をつくボクに、黒龍は不思議そうな顔で聞き返す。

「ボク歌下手だから」

少し恥ずかしそうに言い、音楽の教科書を抱える。

「へたでも楽しく歌えばいいよー」

しっぽをぴこぴこさせる黒龍。

「そうかなあ…?」

そういうもんかなあ?
あまり気楽に考えられないなあ。

ふと時計を見ると4時間目が始まる1分前。

「うわ、やば!急ごう黒龍!」

§

今日歌う歌はさくら。
天宮でも最近春になるとよくかかるんだって。
そんなみんなよく知ってる歌だと、音外す子も少ないよな。
ボク目立っちゃいそう…

というのは杞憂でした。

一番を歌い終わると先生はピアノから立ち上がって少し首をかしげた。
みんなも小声でざわついてる。
そう。ボクよりすごい音外しがいたのだ。

「えーと…3班の子たち、こちらに来て。他の子は各自練習」

3班の6人はのそのそと先生のピアノに向かう。
先頭はぴこぴこしっぽの黒龍。
その後ろ姿を見て5人とも溜め息。

「どうしたの、みんな?」

あくまで楽しそうな黒龍。

このかわいい声で、どーやったらあんな死神のような声が出せるんだろう?
もはや練習するというレベルじゃない歌声に、ボクらは更に深く溜め息をつくのだった。

§

武者第七小学校。
この学校の特色の一つに、合唱が盛んということが挙げられる。
昼休みの春の校舎に軽やかな歌声が響いている。

「歌は人間が生み出した文化の極み、と誰かは言ったらしいが…」

窓辺にもたれかかっている生徒会長は、微かに眉根をよせる。

「白凰様は歌がお嫌いですか?」

そばにいる少年はコーヒーを淹れる手を止めて尋ねる。

「歌には力がありすぎる。
それを知らずに歌う者どもも…」

言いつつ、瞬間、何かを睨むように目を細めた。
その光にびくっとする少年。

白凰は振り返ると窓を閉め、カーテンを引いた。

「なんでもない。それはまだ入らないのかい?」

机に座りながら、淹れかけのコーヒーを指す。

「あ、はい!ただ今!」

コーヒーのカップを傾けながら、部屋の主は机の上の紅い水晶を見つめている。
起き上がりかけた記憶を再び鎮めようと。

§

やっと昼休み。
あの後嫌ってほど練習させられた上、
「おうちで二人でよく練習してきてね」
って言われちゃった。
ボクが黒龍を修正…じゃなくてコーチするの?
できるかなあー?
ああ、気が重い。

「龍之介、どうしたの?」

やっぱりぴこぴこしっぽの黒龍。

「うん、たいしたことじゃ…」

言いかけた目の前で黒龍の様子が変わった。

「黒龍…?」

何かを感じ取ったようにピリピリしたかと思うと、いきなり窓際に走り寄った。
その時急に戦闘機が大気を突ん裂くような爆音が響いた。

「なに、この音…!?」

「きゃー!!」

音だけじゃない。床も壁もビリビリ震えてる。

「おちてくる…!」

爆音と悲鳴の中、黒龍はつぶやいた。
そして窓から飛び下り、走り出した。

「落ちて…?」

意味が分からないまま繰り返す。

「おい!あれを見ろ!」

隣りにいた子が何かを指差す。
それは。

「コ…、コロニー…!?」

円筒形の物体がゆっくりとそらから落ちてきていた。

「あっちって第七小じゃないの?!」

後ろから女子の声。
第七小!?そんな!
ボクも弾かれたように廊下へ走り出していた。


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