炎が燃えている。
雲を焦がすかのように赤い炎が。黒い煙が。
オレは誰かを探している。

必死に。

草むらの中を走り、
視界すべてにセンサを走らせ、
そして、見つけた。
予想していた―確認したくなかった―結果を。

横たわる子ども。
血を流し、
息も弱く、
見るからに、

「!

なにかの名を呼んだ。

§
目が覚めた。
暗い空間の上に見えるのはいつもの天井。

「ゆめ…」

身体が熱い。
そのくせ頭の中はこわ張っている―処理が止まっている。

「また……まだ…」

息をつく。
夢なんて、なんて都合のいいものをみるのだ自分は。
必要ないのに。

時刻を確認する。
03:27
まだ未明。
そういえば今日は彼が病院に行く日だったな。
それが気になっているから、こんな夢をみたのか。

傷はふさがった。
痛みも消えた。
でも、のこるもの…

人間の体に。


§
「あれ?親父、トッキーは?」

起きてきたシンヤは、いつも朝食の支度をしている彼がいないのをいぶかしがる。
もちろん食事の用意はしてあるが。

「さあ?新聞は取り込んであったから、散歩でも行ったんじゃないのか?」

散歩?
なんで急に?
シンヤはさらに不機嫌な顔になる。

「なんなんだよ、何にも言わずに。オレ探してくる!」

そう言うと玄関を開け飛び出した。

§
あのまま物思いの中にいたオレは、新聞配達の音で我に返った。
台所に向かい、新聞をテーブルの上に置いた後、あの場所へ歩き出した。

春の花が咲き乱れる草むら。
その脇を通る道路のガードレールに座り、ぼんやりと花々を眺める。

赤い花。
赤い炎。
赤い血の色。

初めてあのナギナタでひとを殺した時
なにを思ったっけ。

ころせと いわれた
 くにを みだす もの
  ころすべき もの
   ころされたく ない
    じぶんも なかまも
だから ころす

知らなかった。
それで仲間が傷付くとは。
自分の力がそんなに大きいとは。

>五月雨その二へ>


おはなしへ戻る
書きものへ戻る

ホームへ