§
「あら…どうしたの、この傷…?」

ズボンをはかせて上着を脱がしたところで、女性たちの手が止まる。
胸を横切って左肩へと伸びる傷痕。
まだ新しい傷。

「なんだよ?」

急に静かになった女性たちに、シンヤはゆっくり立ち上がる。

「そんな珍しいかよ?ただの事故だよ!」

そう言うと右腕に引っ掛かってる上着を羽織る。

「で、どこに行って何すんだ?」

§
星の見えない夜空を背にし、オレは空から街を見下ろす。
久しぶりに纏った鎧。
空に浮く力もナギナタも以前のまま。
滑空しながら探す視界には家々の灯と明るい店の光。

なぜこんな時間まで営業している必要があるのだろう。
夜は眠る時間。
心落ち着ける時間。

その時間を持たぬから
この国の人々はいつも忙しいのだ。

「シンヤ…」

その心亡くした人の街に、飲み込まれてはいないか。
この街、東京。
光も闇も深い街。

「無事で…」

その街と同じ闇が、この身のなかにもある…

寒気を感じたその時、何かがセンサーに反応した。

§
必死に飛び出した店からどれだけ走ったか。
夜も遅い時間の風は素肌に冷たい。
くしゃん、とくしゃみが出た。

「あー…寒ぃ」

ボタンの外れた上着の前を引き寄せる。
そのラメラメな服を見ると先程のことが思い出されて。
脱ぎ捨ててしまいたいが、それには寒すぎる。

「うー、ちくしょう」

空を見上げる。
ここはどこだろう?
お金もないし。
そういや服もカバンもあの店だ。

「どうしよ…」

コンビニ探して駆け込んでみるとか。
でもそんなことしたら
警察に通報されて、親父が呼ばれて、
ややこしいことになっちまいそうだ。

こんな時、あいつがいれば…
自然浮かんだ考えに首を振る。

「あー、なに考えてんだオレ」

あいつはただの、
ただの同居人。
家族じゃない。
いつかいなくなる…

「いなくなる…」

そのことを思うと何故か苦しくなって、視線が地面に落ちる。

いつかは…

その時、

「シンヤ!」

空から声が降った。

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